心に刻み込まれた花束 最初で最後の優しいわがままで...

私には忘れられないプレゼントがあります。

 

とても大好きで大好きで仕方がない男性からのプレゼント。今でも胸が苦しくなる思い出があります。

 

思い出をくれた人は、もういないのです。

 

私が大好きな人は、私より6歳年上でした。当時、私は23歳で大人に見えた彼が魅力的にみえたものです。

 

ある日、お互い仕事がない日に会う約束をしました。

 

当日、少し遅れて約束していた公園に着いた私は後姿の彼に駆け寄りました。

 

彼が振り向くと、何故か左手に小さなピンクのガーベラの花束が...

 

あまり表情のない彼なのですが、ヘンな顔で自分の顎をポリポリかきながら無言で私に渡すのです。

 

彼なりに照れていたのでしょう。

 

普段から記念日やプレゼントを好まない私に合わせていてくれていたのに「なんで突然!」、私は嬉しいとともに頭の中でいろいろ考えてしまいました。

 

「あろがとう。どうしたの?」と聞くと、「別に、そこのワゴンの店員に押し付けられた」と答えました。

 

みると年配の女性がチラチラこちらをみています。

 

思わす吹き出してしまった私にムッとしたような表情をしながら彼は歩き出したのです。

 

高価なものではないですが、私には何よりのプレゼント。

 

そんな花束も日が経つにつれ弱っていきます。

 

同じように彼も少しずつ体調を崩していきました。

 

そして、病院のベットに横たわる彼が「何もしてやれないな」と私にポツリと言ったのです。

 

私は「じゃあ、花束がほしいな〜」と笑いながら言いました。

 

分かったと言って彼は瞼を閉じました。

 

それから数日が経ち、彼は逝きました。

 

抜け殻のような日々を過ごしているとある日、玄関のチャイムが鳴りました。

 

今はいない彼からのあの日と同じ花束が届いたのです。

 

きっと、あの時と同じようにヘンな顔で私に贈ってくれたのでしょう。


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